大阪高等裁判所 昭和31年(ネ)1055号 判決 1959年5月06日
大津市上北国町三四番地
控訴人
森田いつ
同所
控訴人
森田行雄
同所
控訴人
森田昌雄
同所
控訴人
森田文雄
京都市東山区科竹鼻堂ノ前町
控訴人
森田長雄
同市同区新宮川筋松原下ル西御門町四五八番地
控訴人
今辻百合子
右六名訴訟代理人弁護士
信正義雄
被控訴人
国
右代表者法務大臣
愛知揆一
右指定代理人
藤井俊彦
葛野俊一
右当事者間の頭書控訴事件につき、当裁判所は昭和三四年三月一三日終結した口頭弁論に基き、次の通り判決する。
主文
本件控訴を棄却する。
本訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は原判決を取消す、被控訴人は別紙目録記載の不動産につき昭和二六年九月一三日大津地方法務局受付第二一七号を以つてなされた昭和二二年七月二八日物納による所有権移転登記の抹消登記手続をせよ、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の事実の主張・証拠の提出・援用認否は、控訴代理人において、控訴人等の先代森田光治郎は本件を財産税のため物納したものではない。仮りに然らずとするも、右物納は昭和二五年七月、遅くとも昭和二六年四月二三日の被控訴人が所有権取得登記抹消の日にこれを取消され、本件物件は既に被控訴人の所有ではなくなるに至つたものである。税務担当官吏のなす取消行為は、仮に税務署長自らの処分ではなくとも、有効である。従つてその後において本件物件を物納として被控訴人の所有に帰せしめるがためには、改めて控訴人等先代から物納許可申請をなし、被控訴人がこれを許可することを要する。然るに被控訴人及び控訴人において、事後の物納手続がないのであるから、本件物件は被控訴人の所有ではなく、従つて本件登記は抹消せらるべきものである。また物納者と税務係員の措置との間に物納物件に関し錯誤あるときは、その物納物件に対する物納の許可は無効である。なお原判決事実摘示中に控訴人の主張として「合意によつて物納を取消した」とあるのを「申出によつて物納の許可を取消したものである」と訂正する、と述べ、被控訴指定代理人において、控訴人等主張の相続関係は認める、と述べ、新しい立証として、控訴代理人は、甲第三乃至第五号証を提出し、証人広田美三の供述及び控訴人森田行雄本人尋問の結果を援用し、乙第八号証は不知と述べ、被控訴指定代理人は、乙第八号証を提出し、当審証人葛野俊一の供述及び原審における控訴人森田いつ本人尋問(第二回)の結果を援用し、甲第五証の成立を認めるが、同第三、四号証は不知、と述べた外、すべて原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。
理由
当裁判所は次の理由を附加する外、原判決の理由を全部ここに引用する。すなわち、成立に争のない甲第五号証も、その日附が控訴人主張の本件抹消登記の日時より約十ケ月も以前であることにかんがみると共に、これを当審証人葛野俊一の供述によつて成立を認めうる乙第八号証と対比するときは、これをもつて本件物納不動産の物納許可の取消を肯認するに足る証拠とはなし難く、また控訴人森田行雄本人尋問の結果によつて成立を認めうる甲第三、四号証もまた必ずしも本件不動産の物納許可の取消の資料となすに足らず(弁論の全趣旨により本件不動産以外の不動産の物納許可の取消に関するものと認められる)、その他この点に関する原判決の認定を左右するに足る証拠はない。また物納許可の取消のごとき行政処分は、税務署長のみこれをなし得るもので、他の係員のごときは、その権限を有しないものであるから、本件において、大津税務署長不知の間に、本件抹消登記がなされても、同署長の物納許可の取消がないこと前叙の通りである以上、本件不動産が依然被控訴人の所有であることに何等の変りはなく、さらに本件物納不動産の選定について、控訴人等先代と税務係員の措置との間に、物納許可を無効ならしめるような錯誤のあつたことを認めるべき何等の証拠もない。
結局原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三八四条第一項によつてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき同法第八九条を適用して主文の通り判決する。
(裁判長裁判官 藤城虎雄 裁判官 亀井左取 裁判官 坂口公男)